トッピング全部盛りクレープ2000円
「海だ〜〜〜〜〜!!!!!」
「プールだろ」
はしゃぎまくる嬢ちゃんに冷静にツッコミを入れる。
「プールなんて何年ぶりだろ〜」
「私はこんな大きいプールは初めてです」
「そうなの!?楽しもうネ!」
ああ……姦しい。
俺といつもの三人組は、東京郊外のデカいプールに来ていた。来てしまった。
始まりは一週間前。嬢ちゃんがLINEグループに
『ねぇねぇ!来週の日曜みんなでプール行こうよ🏊おっきいトコ💕絶対楽しいよ😆』
と、送ってきたのだ。
小島さんは仕事があると申し訳無さそうに断っていたが、あとの二人はめちゃくちゃ乗り気だった。俺はそれに乗じて無視を決め込むつもりだったが、嬢ちゃんは甘くなかった。
『オジサンは?来るよね?』
『予定ないって女の勘が言ってるよ??』
『ねぇオージーサーン!!!』
『わざと無視してるでしょ!?分かってるからね😡』
『オジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサンオジサン』
『不在着信』
『不在着信』
『不在着信』
『不在着信』
『不在着信』
……とうとう俺は観念した。
『分かった!俺が悪かった!行くからもうやめろ!』
『やったぁ!じゃあ来週絶対来てね💖約束破ったらお師匠に言いつけるから』
退路を断たれた俺は、渋々ムラサキスポーツに水着を買いに行ったのだった。
そして今日。重い足取りで現地に向かった俺は早速嬢ちゃんのハイテンションボケという洗礼を浴びたのだった……。
「さ、早く着替えてプール行こ!」
「そうだね!」
「ワクワクしますね……」
お喋りが止まらない三人と別れ、更衣室へ向かう。やはり学生と思しき若い輩ばかりで、俺みたいなオッサン一人で来てる奴はまあいない。少し肩身の狭い思いをしながら着替え、プールサイドへ向かう。
外に出ると日差しが照りつけてきた。三人はまだ出てきていないようだった。女は支度に時間掛かるモンだしな。スマホをいじりつつ待っていると、
「オ〜ジ〜サンっ♡」
後ろから甲高い声が響いた。恐る恐る振り向くとそこには、
「……え?」
黒地の水着の腹部分の右半分が網のようになった、非常に露出度の高い水着を着た嬢ちゃんがいた。
「どお〜?この水着、すっごく可愛いでショ?」
「……それ、公序良俗的にオッケーなのか?」
「よく分かんないけど、私可愛いから許されるヨ」
どっから来るんだその自信は。
「楊ちゃ〜ん!待って〜!」
遅れて先生と伏見先生もやってきた。先生は紺のワンピースみたいなやつ、伏見先生はフリフリで肩の出た上にショートパンツと、常識的な水着だったのでホッとする。
「オジサン、よく見たらムキムキだネ!?カッコいいヨ!」
「あー、まぁ、昔は鍛えてたからな……」
「ふーん。あ、写真撮ろ!」
話振っといてこの反応。もう慣れたけど。
「ハイ、撮るヨ〜!オジサンもっと笑顔!」
ぎこちない笑みを浮かべ、写真に写る。どうせこの写真もお師匠サンに送られちまうんだろうな……。
「ヨシ!盛れた〜♡サ、プール行こ!」
スマホを防水ケースにしまった嬢ちゃんはルンルンと歩きだした。と、先生が小さく挙手する。
「あ……すみません、浮き輪を借りてきてもいいでしょうか」
「オッケーヨ〜!私も借りよ!」
レンタルコーナーに立ち寄り、浮き輪を借りる二人。戻ってきた嬢ちゃんの手には浮き輪……ではなく、デカいイルカ型の浮き具が。
「見てこれ可愛いでショ!映えるヨ〜!」
「わっ、可愛い!」
「撮って撮って〜!」
その場で撮影会が始まる。その横で先生は念入りに準備体操をしていた。
「ヨシ!いよいよプールに出陣ヨ!波の出るプール行こ!」
イルカを抱きかかえた嬢ちゃんを先頭に、俺達は波の出るプールに向かった。
波の出るプールは人気スポットのようで、多くの若者でごった返していた。
バシャバシャと水飛沫を上げてプールに駆け込む嬢ちゃん。あとに続いて入ると、やや冷たい水温が心地よい。
「混んでるネ〜、奥行こ、奥!」
嬢ちゃんはイルカに上半身を預けて奥へ奥へと泳いでいく。
「結構波大きいですね〜、いい運動になりそう!」
伏見先生も腕を振りながら続く。正直面倒くさかったが、三人(特に嬢ちゃん)が何かやらかすのではないかと思いついていった。
と、そこへ放送が入る。
『波の出るプールにお越しの皆様!お待たせしました、大波タイムで〜す!』
わっと周りから歓声が上がる。大波タイムとは……?と不思議に思っていると、不意に大きな飛沫が顔に掛かった。足元を引いていく波も強い。なるほど、普段より波がデカくなるボーナスタイム的なやつか。
「わ〜!波おっきい!乗るしかないネ、このビッグウェーブに!」
嬢ちゃんはイルカにまたがり大波を乗りこなしていた。
「楊ちゃんすご〜い!」
伏見先生はそんな嬢ちゃんを動画に収めている。
そして先生は……先生がいない。
「伏見先生、先生はどこに?」
「あれっ、筆子さんいない……?さっきまでそこにいたのに」
「エッ、筆ちゃん迷子?」
異変に気付いた嬢ちゃんもイルカから降りてやってくる。
三人で辺りを見回していると、見つけた。
プールの最奥部で波に翻弄されている先生を。
「先生ーーーーー!」
「筆ちゃーーーん!」
「筆子さーーーん!」
俺たちは叫んだ。
と、こちらに気付いた先生が謎のポーズを決めた。
「あっ、なんか楽しそうだネ!」
すると次の瞬間、とびきり高い波が先生を飲み込んだ。
「おいーーーー!?」
「ワーーーーー!?」
「いやーーーー!?」
俺達は急いで先生の元に向かった。波が引き、ずぶ濡れになった先生が姿を現す。
「筆ちゃん大丈夫!?」
「……浮き輪のおかげで助かりました。自然は厳しいですね」
いやここプールだから!プールで遭難しないでくれ!
「あっ、また波が来そう」
「早く岸に戻らねぇと……」
「私に任せてヨ!みんな、イルカさんに掴まっててネ!」
……何をする気だろうか。とりあえず言われた通りイルカのヒレを掴む。先生と伏見先生もそれぞれヒレを掴んだ。
と、嬢ちゃんがイルカの上に飛び乗り、そのまま立ち上がった。
「最高のビッグウェーブ……乗りこなしてみせるヨ!」
背後から大波が迫る。嬢ちゃんはタイミングを合わせて大きく屈伸すると、波の上に乗り上げた。
「うおぉぉぉぉぉ!」
そのまま波の上をサーフィンするように滑り、俺達は岸近くまで運ばれたのだった。
「あの子すげー!」
「やば!超カッコいいんですけど!」
周りから歓声が上がる。嬢ちゃんはブンブンと手を振って声援に応えていた。
そして運ばれた俺たちはというと……波に飲まれ頭の先からびしょ濡れだった。
「先生、伏見先生……大丈夫ですか?」
「楽しいアトラクションですね」
「楊ちゃんすごいなぁ〜。体幹がすごい」
二人は特に気にしていないようだった。
「ネ、次スライダー行こうよ!」
「あ、行きたーい!」
「スライダー……初体験です」
きゃいきゃいと相談する三人。
「俺はパス……」
「ダメだヨオジサン!ここの名物スライダーは二人乗りなんだかラ!」
嬢ちゃんに無理矢理手を引かれ、スライダーの乗り場へと向かう。俺はもう諦めたよ……。
スライダーは、筒の上半分を切り取ったような形をしており、そこをデケェ浮き輪に座って滑り降りるというスタイルだった。
「結構並んでるね〜」
「じゃあ、並んでる間にペア決めヨ!ぐっぱーぐっぱー!」
“ぐっぱー”の結果、嬢ちゃんと伏見先生、俺と先生が一緒に滑ることになった。先生の年齢は分からないが、おそらく最年長ペアだろう。
「よろしくお願いします」
ご丁寧に挨拶してくれる先生。
「はは……どうも……」
そうこうしてるうちに順番が回ってきた。
先に滑る嬢ちゃんと伏見先生が準備をする。
「ナナちゃん!動画の準備はオッケー!?」
「バッチリだよ〜!」
二人はスライダーに吸い込まれていった。
「くず……さん」
唐突に先生に話しかけられる。
「どうしました?」
「この……スライダーというのはどういったものなのでしょうか?いえ、この輪に乗って斜面を滑り降りるというのは分かります。ですが、それがアトラクションになるというのが分かりません。そもそもジェットコースター等の斜面を高速で滑走する遊具の楽しさというのが理解できないのですが、あれはベルトで固定されていて安全が保証されていますよね。確実ではないですが。しかしこのウォータースライダーはほぼ体が剥き出しのままですよね。水のクッションがあるとはいえ安全面では……」
「……怖いんですか?」
「怖くありません」
……俺は先生が怖い。
嬢ちゃん達が滑り終えたらしく、スタートに案内される。チューブを置き、前側に座る。ガチガチの先生も躊躇いつつ後ろに座った。
「それではいってらっしゃ~い!」
スタッフにチューブを押され、俺たちはスライダーに投げ出された。最初は普通のスライダーと変わりはない。が、しばらくすると視界が開けた。そして右に大きく振られる。半円の端近くまで到達すると、今度は逆側にグンッと揺さぶられる。普通のスライダーと比べて疾走感には欠けるが、この動きはなかなか面白い。と、心配になって後ろを振り返ると、先生は無表情でチューブの取っ手を握りしめていた。
チューブはジグザグとした動きを繰り返しながら、終点に辿り着いた。チューブから降り、先に滑り終えた二人と合流する。
「あっ、オジサン!筆ちゃん!楽しかったネ〜!」
「お二人が滑ってるところも撮っちゃいました!」
俺達声一つ上げなかったが、面白いのだろうか。
「先生、大丈夫ですか?」
無表情のままの先生に問いかける。すると
「……もう一回、乗りたいです」
先生が顔を少しだけ綻ばせた。
その後、もう一度乗るという先生と嬢ちゃんを見送り、俺と伏見先生はスライダーの降り口で二人を待っていた。
「葛巻さ〜ん、そろそろお腹空きませんか?」
「あぁ、そういえば……腹減ってきましたね」
「ですよね!!!ここのプール、グルメもなかなか有名なんですよ」
伏見先生がスマホを向けてくる。そこには、ここのグルメ情報がまとめられていた。
「ここのソース焼きそば、すごく美味しいらしいんです!あとこのハンバーガーも美味しそうで……でもラーメンも捨てがたいんですよね……あぁ、クレープも可愛い!どうしましょう……?」
「全部食べたらいいと思いますよ」
「ですよね!!!」
俺の返事を待っていたと言わんばかりに伏見先生は満面の笑みを浮かべた。
帰ってきた二人も空腹とのことで、俺達はフードコートに向かった。俺は美味いらしい焼きそばを食うことにした。嬢ちゃんはハンバーガー、先生はラーメン。伏見先生?勿論全部である。
焼きそばはソースが効いていて確かに美味かった。それはいいんだが……
「見て見て!このハンバーガー、ケチャップでニコちゃん描いてあるノ!」パシャ
「モグモグモグモグモグモグモグモグ」
「ネ、可愛いよネ!」
「ススッ……」
「それにポテトがお星さまなのヨ!映えだネ!」パシャパシャ
「ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ」
「アチッ」
「えっ、焼きそばめっちゃ美味しい?オジサン一口ちょ〜うだいっ」
「モゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
「メンマ……」
あ〜〜〜〜〜!だと思ったよ!
相変わらず嬢ちゃんはパシャパシャうるせえし、相変わらず伏見先生が咀嚼音で会話できてんの謎だし、相変わらず先生は食うの遅すぎるし!
あと嬢ちゃんは俺が何か言う前に焼きそばを食った。
「あとでおやつにクレープ食べようネ〜」
「サ、午後の部だヨ〜!まずは腹ごなしに、水中バレーでもしようカ!」
いつの間に借りてきたのか、ビーチボールを小脇に抱えた嬢ちゃんが高らかに言う。
「じゃあチーム分けしよう!ぐっぱーネ!」
“ぐっぱー”の結果、俺と伏見先生、嬢ちゃんと先生のペアに決まった。
「よーし、負けないヨ〜!」
「こっちだって!」
腰くらいの高さのプールに入り、2対2で向かい合う。
「行くヨ!そーれっ」
嬢ちゃんの鋭いサーブが飛んでくる。だが俺の正面。難なくレシーブし伏見先生に繋ぐ。
「任せてくださいっ!」
伏見先生が綺麗なトスをあげる。俺はそのボールを軽めに向こう側へ叩き込んだ。まぁお遊びだし、こんくらいがちょうどい……
「甘いッ!」
嬢ちゃんが俺のアタックを軽くいなすようにレシーブする。
「筆ちゃんッ!」
「はい」
そして先生がそのボールをトスした……頭で。
あらぬ方向に飛んだボールに飛びつく嬢ちゃん。そして放たれたアタックは、俺と伏見先生の丁度真ん中にズバァンと着水した。
「……っ!」
「強い……!」
「私はいつだって本気ヨ……。見せてもらおうか、本気の二人をぉ!」
……いつからスポーツ漫画になったんだ?
嬢ちゃんは本気出せと言うが、明らかに苦手そうな先生もいることだし、ゆるくやろうぜ……と下からサーブをする。緩い曲線を描いたそのボールは……先生の顔面に着地した。
「筆ちゃーーーーーーーん!!!!!」
「筆子さーーーーーーーん!!!!!」
「あっ……スミマセン」
顔面にボールを受けた先生はぷくぷくと水に沈んでいった。
「よくも!よくも筆ちゃんを……!許さない!絶対に許さないぞ!」
涙目の嬢ちゃんが俺を物凄い形相で睨んでくる。
「筆ちゃんの仇は私がとるッ!」
「いや生きてるから」
「生きてます」
水面から半分だけ顔を出した先生がピースサインをしている。
「くらえッ!必殺仇討ちサーブ!」
「うおっ」
強烈なサーブが飛んでくる。レシーブするもボールは後ろに逸れてしまった。
「スイマセン伏見先生!」
「大丈夫!ハイッ!」
伏見先生が何とか拾ってくれる。上がったボールを誰もいない水面目掛けて叩き込む。
が、水面が盛り上がったかと思うと、いないはずの嬢ちゃんがそこに現れた。
「甘い甘いッ!」
難なくレシーブされてしまう。上がったボールを先生が、今度はちゃんと手でトスするも大きく右に逸れた。
「あ、すみません」
「無問題!」
水から飛び出した嬢ちゃんが大きく右に飛び、上がったボールを力強く叩く。
伏見先生の正面に飛んできたボールを彼女がレシーブするが、球威に押されて水面に倒れ込んでしまう。クソっ、ここはこのままアタックするしかねぇ!俺は低く上がったその球を嬢ちゃん目掛けて強打した。
「真正面に打ち込んでくるなんて、舐められたもんヨ」
嬢ちゃんに軽々レシーブされた球は、先生の頭を経由して高々上がった。
「これで……終わりヨ!」
嬢ちゃんのアタックは目にも止まらぬ速さで俺の左を掠め、大きな水飛沫を上げて着水した。
「ッシャア!見ててくれた、筆ちゃん……仇、とったヨ……」
空を見上げ呟く嬢ちゃん。いや先生生きてっから。横でダブルピースしてっから。
しばし水中バレーで遊んだ俺達はその後、休憩してクレープを食った。伏見先生はトッピング全部盛り(2000円)とかいう化け物クレープをペロリと平らげていた。
「ウーン、疲れた体にクリームが沁みるネェ」
確かに、先程の水中バレーで一気に疲れた。
先生は……分かりにくいが昼より食べる速度が更に遅いから疲れてはいるのだろう。伏見先生?アホみてえなボリュームのクレープ食ってるし元気なんじゃねえか。
「みんなお疲れみたいだシ、プール切り上げて温泉ゾーン行こっカ!」
ここのプールには温泉まであるのか。確かに疲れた体を温泉で癒せたら嬉しい。……癒やせたらな。
先生がクレープを食べ終わるのを待ち、俺達は温泉ゾーンへ向かった。岩に囲まれたそこに他の人影はなく、隠れ家的な雰囲気があった。
「わっ、いい雰囲気〜」
「入ろ入ろ!温泉〜♡」
お湯は少しぬるめだったが、疲れが溶け出していくような心地よさ。
「あ〜〜〜生き返るネ〜〜〜」
嬢ちゃんがオッサンみたいな声を出す。言ったらシバかれそうなので口にはしないが。
「温泉なんていつぶりだろ〜気持ちい〜」
「ほっとしますね……」
先生と伏見先生も気持ちよさそうに寛いでいる。
と、退屈したのか嬢ちゃんが口を開いた。
「しりとりでもしよっカ!7文字以上縛りで!」
……せっかく羽を伸ばしていたのにこれである。
しかしあとの二人は乗り気だった。
「あ、いいよ〜」
「言葉の戦いなら負けません」
特に先生は闘志を燃やしていた。いやただのしりとりだろ……。
「じゃ私からいくヨ!中華人民共和国!」
「次は私ですね……クラウチングスタート」
「じゃあ私が!透析療法!」
「俺か……う……う、なぁ……あ、ウラジオストク」
「く、だネ〜。首吊り自殺!」
「す〜……ステロイド剤!」
「い……い……一方通行」
「う〜〜〜……ウーバーイーツ!」
「つ攻めですか……いいでしょう、翼をください」
「い……1型糖尿病!」
「またうか……上杉景虎」
「誰それ。まぁいいヨ。乱暴狼藉!」
「救急救命士」
「し……心臓血管外科!」
「か、か……勘合貿易」
「グランドピアノ」
「の……のう……脳卒中後遺症!」
「う……う〜……雨後の筍」
「こー……光学迷彩!」
「井の中の蛙大海を知らず」
「ず!?頭寒足熱……とか?」
「つ、なぁ……通常国会」
「い!一仏浄土!」
……いつまでやるんだ。というか嬢ちゃんが出すワード、ちょいちょい治安悪いんだよな……。首吊りとか……キールハウリングって拷問だろ?あと先生が常に即答なのも怖いし、伏見先生が医療用語しか言わないのも怖い。
その後もしりとりは白熱し、俺達は半分のぼせながら温泉ゾーンを後にしたのだった。
「いや〜!今日は遊んだネ!楽しかったヨ!」
「ほんと〜!プールなんて久しぶりだったから楽しめるかな、って思ってたけどすっごく楽しかった!」
「スライダー……楽しかったです」
着替えを終え出口でスマホを見ていると三人が楽しそうに喋りながらやってきた。
「あ、オジサン!オジサンも楽しかった?」
嬢ちゃんにキラキラした目で見つめられ、思わず頷く。
「だよねだよね!またみんなで来ようネ!今度は小島サンも一緒に!」
楽しそうにぴょんぴょんと跳びはねる嬢ちゃん。その後ろ姿を見ながら、たまにはこういうのもいいかな、と思ったりするのだった。
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一方その頃小島さんは……
ルワンダ行きのフライトの最中だった。
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後日。
小島さんから小包みが届いた。開けてみると、封筒が一つと謎の置物が入っていた。
封筒を開けると、綺麗な文字でこう書かれていた。
『この前はご一緒できずごめんなさい。ルワンダに行ってました。お詫びではないですがお土産を送ります。“ルワンダのときめき”といって、お守りになるらしいので良かったら飾ってあげてください。』
謎の置物をまじまじと見る。モアイのように見えなくもない像に、花や星の装飾がほどこされている。そして両腕があるべき部分には鳥の羽と魚の尾のような何かが生えていた。
「……なんだこれ」
【< ウチらズッ友だょ (5)】
『小島サ〜ン!お土産ありがとう✨ちょぉウケる!かわいい(笑)』
『私にもありがとうございます!医局に飾ろうかな笑』
『いえいえ!無事届いて良かったです!』
『小島さん、とても素敵なお土産をありがとうございます。お守りにもなるなんて素晴らしいですね。早速机に飾りました』
<筆子 が写真を送信しました>
『飾ってくださったんですね!ありがとうございます!す、すごい、美術館みたいな机ですね……😳』
『お気に入りのものは机に置いてるんです。美術館、素敵な例えをありがとうございます』
<小島ゆうき がスタンプを送信しました>
『小島さん俺にまでお土産ありがとうございます』
『葛巻さん!いえいえ、いつものお礼ですよ〜』
『みんなお揃いなんだネ!嬉しい💕みんなずーっと仲良くいられますように、ってお願いしよ🙏』
『僕もフライト前にお祈りしてます👍』
『残業減りますように……』
『締め切りが伸びますように……』
『それは恩田さんにお願いしてください💦』
『その前に原稿してくださいって恩田さんの悲鳴が聞こえてくるようだ……』
『オジサンは?何お願いするの?』
『え?そうだなぁ……無病息災、かな』
『ふーん、普通だね』
『普通が一番だろ』
『確かに!普通の日常が一番幸せで大切ですよね』
『そんなもんかァ。まぁでも、皆が幸せなら私はおっけーヨ👌』
そう、普通の日常こそ何より大切なんだ。
今までに経験した、不思議な出来事たちを思い出す。
もう二度とあんな体験をしませんように、とでもお祈りしとくか。
ちらりとルワンダのときめきとやらを見る。その時一瞬、そいつがウインクしたように見えたが……きっと気のせいだろう。