花忍本店

小説を載せます

ラブレター

草原に涼やかな風が吹き抜ける。 またあの夢だ。 私は馬に乗り草原を歩いていた。 そこへ、前から馬を駆る一人の少年がやってきた。整った顔立ちに、柔らかくカールした黒髪が風に吹かれたなびく。すれ違いざま、バチッと目が合った。ドクリと心臓が跳ねる。…

トッピング全部盛りクレープ2000円

「海だ〜〜〜〜〜!!!!!」 「プールだろ」 はしゃぎまくる嬢ちゃんに冷静にツッコミを入れる。 「プールなんて何年ぶりだろ〜」 「私はこんな大きいプールは初めてです」 「そうなの!?楽しもうネ!」 ああ……姦しい。 俺といつもの三人組は、東京郊外の…

スパリゾートハワイアンズのステマ

「着きましたよ〜!ここが日本のハワイ!スパリゾートハワイアンズです!」 意気揚々と先頭を歩く耕太クン。彼の気合の入りようは、真っ赤なタンクトップとスパンコールが散りばめられたショッキングピンクのパンツからも読み取れる。 「日本のハワイか、楽…

ノドグロ一皿240円(一貫)

「あっ、倫さ〜ん!こんにちは〜!」 遠くからピエロのような格好の人物が大きく手を振っている。認めたくないが、彼が今日の待ち合わせ相手だ。 「耕太クン……今日もその……オシャレやな」 ショッキングピンクと深い青の格子柄のトレーナーに黄色のスキニーパ…

ねぇクリスくん、せめて自分の分だけは出してくれないかな

『良い子のみんな〜!こ〜んに〜ちは〜!』 こんにちはー!と元気な子供達の声が響く。 「「こんにちはー!」」 勿論紗音と凪音の声も。 『今日はマッスルパワー☆プリキュアのステージに遊びに来てくれてありがとう!小さいお友達も、大きなお友達もみんな楽…

冬の幻

「……でさぁ〜、この前数学ん時に〜……」 机にだらしなく寝そべる豊満な胸が、もといその持ち主が気怠げに話している。内容に全く興味が湧かず適当な相槌を打っていると、「ちょっとクリスくん聞いてる〜?」という非難の声と同時にばるばるっと乳が揺れた。 …

However

女の悲鳴が聞こえた。深夜2時の繁華街だ、どうせくだらない痴話喧嘩か、酔っぱらいが騒いでるだけか、少なくとも今までの経験上はそのどちらかだった。しかし警官の制服を纏っている以上、シカトするわけにもいかない。俺はまだ長い煙草を灰皿に投げ入れ、声…

The snake knows what the ill heart thinks.

それは零課に配属される少し前、まだ俺が刑事課にいた頃の話だ。とある大きなサイバー犯罪の特別捜査本部が敷かれることとなり、何故か俺もそこに召集された。しかし犯人の手掛かりも無く、捜査は泥沼にハマッていた。そんな中、事件に動きがあった。別件で…

初期メンで回転寿司に行ったヨ

『オジサンへ♡ 今度の日曜日、筆ちゃんとナナちゃんと回転寿司に行くんだけど、オジサンも来ない?小島さんはお仕事だって。:゚(;´∩`;)゚:。いいお返事待ってるヨ♡』 スマホの画面に映し出された文字列を見て、俺は頭を抱えた。嬢ちゃんからのLINEだ。考えるより…

死神さんは胃袋を掴みたい

「おかえりなさい、泉ちゃん。」 むくんだ足からパンプスを引き剥がす私の前に現れたのは、可愛いエプロンを着けた黒髪の美青年。 「今日はロールキャベツだよ〜」 ニコニコして言う彼を無視して私は部屋に入った。部屋中にトマトスープのいい匂いが漂ってい…

クリスの休日〜リトルツインスターズといっしょ〜

「クリスおじさま!早く〜」 「クリスくん、早く早く〜」 紗音と凪音の賑やかな声がシンクロする。揃いのリュックを背負い、色違いのワンピースを纏った彼女たちの目はキラキラと輝き、今にも走り出さんとしている。 「おい、走るなよ。俺らから離れるんじゃ…

クリスとマキオと猪狩が寿司屋に行く話

「んじゃ、二徹お疲れさん」 俺たちは生ビールのジョッキをカチン、とぶつけた。 俺はマキオと二人で回転寿司に来ていた。面倒くせぇ案件を二日間徹夜で片付けたご褒美みたいなもんだ。津田沼サンと小髙サンも誘ったが、やんわりと断られてしまったため、二…

緑色の童話② (完結)

僕が人間の姿になっても、萌黄の態度はあまり変わらなかった。以前と変わらず仕事終わりには僕を撫で回した。彼女の曰く、唯一の癒やしらしい。晩ごはんは萌黄と同じものが用意されるようになった。僕は何度も食事は必要ないと言ったが、彼女は一緒に食事を…

夏の日のあおくん

太陽の光が燦々と降り注ぐ真夏のある日。私は大荷物を背負って歩いていた。目的地は勿論、あおくんの家だ。相変わらず日照り続きで参ってしまっているあおくんが、少しでも元気になればいいなと思い、今日はプレゼントを用意したのだった。 「あおくん、喜ん…

緑色の童話①

ある年の冬。僕は公園の隅っこで寒さに震えていた。毎年こうやって冬を越しているが、今年の冬は特に厳しかった。例年ならば人の姿のままで過ごすことも出来たが、今年はそうもいかなかった。僕は芋虫のような醜い姿で葉っぱの陰に身を潜めていた。そこへ、…

星色の童話④

次の日、美夜の言葉通り我々は彼女の地元へと戻った。移動中、背負い鞄にしまわれていたのは窮屈だった。電車を降りると美夜は、人目に付かない場所で俺を鞄から出してくれた。 鞄から出ると、空には星が燦然と輝いていた。俺は体の底から力が漲ってくるのを…

海色の昔話

昔々、或るところに海の色を纏った男が暮らしていました。その男の目や髪は普段は透き通った碧色をしていますが、明け方には赤く、また夜には闇を溶かしたような黒に変わる、不思議なものでした。男は海の近くの家に一人で住み、魚を採ることを生業にしてい…

星色の童話③

次の日の夕方。俺は美夜と共にシンカンセンに乗っていた。彼女の大きな荷物は見た目に反してとても軽かった。美夜は車窓を流れる景色を切なそうに眺めていた。 東京は夜にも関わらずギラギラと輝いていた。星とは似ても似つかない無粋な光に思わず眉をひそめ…

星色の童話②

それから俺と美夜は、星の見える夜にたびたび散歩をするようになった。歩きながら美夜は、俺に色々な話をしてくれた。例えば、美夜の母は10年ほど前に家を出ていったきりでそれ以来父親と二人暮らしであることや、父親は仕事人間で美夜にほとんど構わなかっ…

馬に願いを【ヤバい男に愛されちゃって】

「行けーっ!差せっ、差せぇ……あぁ……」 今日もリビングから大きな声が響く。声の主は菊花泰斗、私の彼氏だ。泰斗とは2年前に付き合い始め、半年前から同棲している。彼は小柄で童顔だが人当たりのいい好青年で、何より私にはとろけるように優しいところが大…

導入が陣内のそれなんよ

「お、こんなところにゲーセンなんかあったのか」 駅からの帰り道、俺は見覚えのないゲームセンターを見つけた。普段一人で行くことはないが、たまには寄ってみるのも悪くないだろう。俺は、ゲーセンに足を踏み入れた。それが恐怖の始まりとも知らずに……。ゲ…

ラーメン

とある冬の休日、俺はラーメンが食べたくなって近所のラーメン屋を訪れた。そこは老夫婦が経営している店で、小さな店構えながらも濃厚な絶品ラーメンが味わえるので気に入っていた。俺は割と頻繁に通っているので、ご夫婦とも顔なじみになっていた。今日は…

眠れない夜の話

午前一時。私は眠れずにいた。目が冴えてしまって、どうにも寝付けない。ベッドの中でウダウダしているうちに、ふいに天斗さんに会いたくなった。この時間では既に寝ていることだろう。でも、せめて気配だけでも天斗さんを感じたい。そう思うといてもたって…

5月某日、午前10時。今日俺は、耕太クンとファービーと出かける約束をしていた。都内の某駅の改札前でTwitterを見ながら二人を待っていると、 「おはようございます〜!」 耕太クンの元気な声が聞こえてきた。 「おう耕太クン、おはよ……」 顔をあげると、そ…

星色の童話①

流星が目の前を駆け抜けていった。それは、金色の髪をした少女だった。 少女はこちらを一瞥し、少し驚いた表情を浮かべたが、足を止めることなく走り去っていった。 俺は暫く、彼女の走っていった方向を見つめていた。 ほどなくして、後から走って来た警察官…

兄弟の話【俺と私の太陽】

コンコン、とノックの音。部屋のドアを開けると、そこに立っていたのは陸斗兄さんだった。 「なんか寂しくなっちゃって……入ってもいい?」 破壊力抜群の切なげな表情。なるほどこうやって女の人たちを懐柔しているのだな、と思うが断る理由も見当たらないの…

人物紹介【俺と私の太陽】

○曜 主人公。19→20歳。見た目はやんちゃっぽいが中身は根暗。 母の再婚でこの家に来た。 最初は飄々としていつもからかってくる天斗を苦手としていたが、徐々に惹かれるようになる。 ○天斗(たかと) 長男。30歳。口髭を生やしている。 一番曜を妹として扱って…

ぬいぐるみの話【俺と私の太陽】

私には秘密にしていることがある。それは、ぬいぐるみが好きだということだ。小さい頃からぬいぐるみが大好きで、沢山集めていたし、もちろん一緒にも寝ていた。しかし、この家に引っ越すにあたって大部分は母の知り合いが経営している保育施設に寄付してし…

熊と駆ける少女【完全版】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※注意 この物語は作者の夢を忠実に文章化しつつ脚色を加えたものです。その為、読み進めていく中で違和感やツッコミたくなる気持ちを覚える可能性があります。そしてあくまでもこれは“夢の話”です。それ以上…

雨の日のあおくん

この世界には不思議な人々がいる。 彼らはそれぞれが違った色を纏っており、もれなく人知を超えた見目麗しい存在なのである。 私の友人の"あおくん"もその一人だ。 彼は深い青色の髪と透き通るような青い目をしていて、当然ながらその顔も震えるほど美しい。…