花忍本店

小説を載せます

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

緑色の童話② (完結)

僕が人間の姿になっても、萌黄の態度はあまり変わらなかった。以前と変わらず仕事終わりには僕を撫で回した。彼女の曰く、唯一の癒やしらしい。晩ごはんは萌黄と同じものが用意されるようになった。僕は何度も食事は必要ないと言ったが、彼女は一緒に食事を…

夏の日のあおくん

太陽の光が燦々と降り注ぐ真夏のある日。私は大荷物を背負って歩いていた。目的地は勿論、あおくんの家だ。相変わらず日照り続きで参ってしまっているあおくんが、少しでも元気になればいいなと思い、今日はプレゼントを用意したのだった。 「あおくん、喜ん…

緑色の童話①

ある年の冬。僕は公園の隅っこで寒さに震えていた。毎年こうやって冬を越しているが、今年の冬は特に厳しかった。例年ならば人の姿のままで過ごすことも出来たが、今年はそうもいかなかった。僕は芋虫のような醜い姿で葉っぱの陰に身を潜めていた。そこへ、…

星色の童話④

次の日、美夜の言葉通り我々は彼女の地元へと戻った。移動中、背負い鞄にしまわれていたのは窮屈だった。電車を降りると美夜は、人目に付かない場所で俺を鞄から出してくれた。 鞄から出ると、空には星が燦然と輝いていた。俺は体の底から力が漲ってくるのを…

海色の昔話

昔々、或るところに海の色を纏った男が暮らしていました。その男の目や髪は普段は透き通った碧色をしていますが、明け方には赤く、また夜には闇を溶かしたような黒に変わる、不思議なものでした。男は海の近くの家に一人で住み、魚を採ることを生業にしてい…

星色の童話③

次の日の夕方。俺は美夜と共にシンカンセンに乗っていた。彼女の大きな荷物は見た目に反してとても軽かった。美夜は車窓を流れる景色を切なそうに眺めていた。 東京は夜にも関わらずギラギラと輝いていた。星とは似ても似つかない無粋な光に思わず眉をひそめ…

星色の童話②

それから俺と美夜は、星の見える夜にたびたび散歩をするようになった。歩きながら美夜は、俺に色々な話をしてくれた。例えば、美夜の母は10年ほど前に家を出ていったきりでそれ以来父親と二人暮らしであることや、父親は仕事人間で美夜にほとんど構わなかっ…

馬に願いを【ヤバい男に愛されちゃって】

「行けーっ!差せっ、差せぇ……あぁ……」 今日もリビングから大きな声が響く。声の主は菊花泰斗、私の彼氏だ。泰斗とは2年前に付き合い始め、半年前から同棲している。彼は小柄で童顔だが人当たりのいい好青年で、何より私にはとろけるように優しいところが大…

導入が陣内のそれなんよ

「お、こんなところにゲーセンなんかあったのか」 駅からの帰り道、俺は見覚えのないゲームセンターを見つけた。普段一人で行くことはないが、たまには寄ってみるのも悪くないだろう。俺は、ゲーセンに足を踏み入れた。それが恐怖の始まりとも知らずに……。ゲ…

ラーメン

とある冬の休日、俺はラーメンが食べたくなって近所のラーメン屋を訪れた。そこは老夫婦が経営している店で、小さな店構えながらも濃厚な絶品ラーメンが味わえるので気に入っていた。俺は割と頻繁に通っているので、ご夫婦とも顔なじみになっていた。今日は…

眠れない夜の話

午前一時。私は眠れずにいた。目が冴えてしまって、どうにも寝付けない。ベッドの中でウダウダしているうちに、ふいに天斗さんに会いたくなった。この時間では既に寝ていることだろう。でも、せめて気配だけでも天斗さんを感じたい。そう思うといてもたって…

5月某日、午前10時。今日俺は、耕太クンとファービーと出かける約束をしていた。都内の某駅の改札前でTwitterを見ながら二人を待っていると、 「おはようございます〜!」 耕太クンの元気な声が聞こえてきた。 「おう耕太クン、おはよ……」 顔をあげると、そ…