花忍本店

小説を載せます

スパリゾートハワイアンズのステマ

「着きましたよ〜!ここが日本のハワイ!スパリゾートハワイアンズです!」

意気揚々と先頭を歩く耕太クン。彼の気合の入りようは、真っ赤なタンクトップとスパンコールが散りばめられたショッキングピンクのパンツからも読み取れる。

「日本のハワイか、楽しみだねぇ」

一方のファービーは白いロゴ入りTシャツに黒のダメージデニム。イケメンにしか許されないシンプルイズベストな出で立ちで柔和な笑みを浮かべている。

「なぁ、今んとこヤシの木くらいしかハワイ要素あらへんねんけど……」

俺は思わず口を挟んだ。建物の外観は役所と言われても頷ける程サッパリしており、全くハワイ感はない、

「入れば分かります!いいから早く〜!」

耕太クンにせっつかれ歩を進める。しばし歩くとようやく建物の入口が見えてきた。

入口前には謎のゆるキャラの巨大パネルが設置されており、なんとも言えない哀愁が漂っていた。

「耕太クン……このキャラなんなん?」

「彼女はココ姉さんです!妖精さんなんですよ!」

「ふ、ふ〜ん……」

「せっかくですし写真撮りましょう!ハイ、倫さん!ファービーさん!並んでください!」

耕太クンがスマホを取り出し俺らに号令をかける。俺は渋々従った。

「撮りますよ〜!あ、倫さん表情が硬いですよ!もっと笑って!」

「お、おう……」

正直顔面国宝級の二人と写真に写るのは気が引けたが、致し方ない。俺は精一杯の笑顔を作った。

「撮れました!後でLINEグループに送りますね!」

「うん、ありがとう耕太くん」

「ありがとうな……」

「いえいえ!じゃあいよいよ入りますよ〜!」

俺達はスタッフさんの「アロハ〜!」の声に見送られながら館内に入った。

「さて、まずは水着買わんとな」

「そうだね、丁度そこに売店があるようだし、見てみようか」

「あ、僕は水着持ってきてるのでそれ着ますね!」

最高に嫌な予感がするが、ひとまず置いておく。

売店に入ると、思いの外沢山の種類の水着が並んでいた。俺は夕焼け空にヤシの木の影がプリントされた柄、ファービーは青地にハイビスカス柄のものを選んだ。途中耕太クンが嬉々とした顔でリアルなイルカが大々的にプリントされたブーメランパンツ型の水着を勧めてきたが普通に無視した。

会計を済ませ、更衣室に向かう。

「いやぁ、プールなんて中学生ぶりやわ」

「僕もしばらく来ていないな」

「ええっ、二人ともプール来ないんですか!?僕なんてここ年に4回は来ますよ!」

「それは多いな!?」

そんな他愛のない会話をしながらロッカーに荷物を入れ、水着に着替える。

ふと横の耕太クンを見てみると……オレンジ地にリアルなカメが大々的にプリントされたブーメランパンツ型の水着を着ていた。

「いややっぱりぃ!!!」

「どうしたんですか倫さん、急に大きな声出して」

「いや、その……耕太クン、その水着はここで買うたん?」

「そうですよ〜!可愛いでしょう?」

「あ、ああ……せ、せやな……」

「はは……耕太クンは面白い服を見つけるのが本当に上手だね……」

流石のファービーも苦笑いしている。

「さぁ!着替え終わったことですし、早速プールに行きましょう!」

しっかり水泳帽にゴーグルまで装備した耕太クンが先陣を切って更衣室を出ていった。俺とファービーも後を追う。

プールは思っていた以上に広がった。正直田舎のプールと侮っていたことを恥じる。

足洗い槽を通過しプールサイドに出る。平日なためか親子連れがまばらにいるのみで空いていた。

「オススメは流れるプールなんですが……お楽しみはとっておいて、まずは遊びましょう!」

耕太クンはシンプルな四角いプールにバシャバシャと突っ込んでいった。

「あ、待ってや耕太クン!」

俺も後を追ってプールに入る。水温は程よい冷たさで心地いい。

「ああ、丁度いい温度だね」

遅れてファービーがやって来た……ん?

ファービーその浮き輪どうしたん?」

「ん?あぁ、顔が濡れるのはあまり好きじゃなくてね」

アンパンマンか。いやちゃうくて、

「どっから持ってきたん?」

「ちょっとそこから拝借した」

彼が指差す先を見ると……『浮き輪レンタル 1時間600円』の文字。

「いや泥棒やんけ!」

俺は小声でツッコんだ。

「大丈夫大丈夫、ちゃんと1時間で返すから」

そういう問題ではない。

俺は溜息を吐き耕太クンを……あれ、耕太クンおらん。

キョロキョロしていると真横の水面が突然大きく揺らぎ、ザパァンと耕太クンが姿を現した。

「ぷはぁ……!倫さん!ファービーさん!水中息止め記録更新しました!45秒です!」

いつの間にか自分の限界を超えていた。

「お、おぉ……おめでとう!」

「すごいじゃないか耕太くん!」

何故か俺達は惜しみない拍手を送った。

「お二人も挑戦しませんか!?」

「「いや、いい」」

即答だった。

「えぇ……」

分かりやすく膨れる耕太クン。

「ねぇ耕太くん。さっきオススメと言っていた流れるプールが気になるな」

さりげなく話題を変えてくれるファービー

「……ああ、せや!俺も気になっとった!行ってみたいんやけどええかな?」

「ハイ!勿論です!行きましょう!」

すっかり機嫌を直した耕太クンに続いてプールを出る。流れるプールはすぐ近くだった。

「ここの流れるプールには水槽があるんですよ!」

「水槽、かい?」

「ハイ!お魚を見ながら泳げるんです!」

流れるプールに入る。一見何の変哲もない流れるプールだが、少し進むと、

「うわぁ、すごいなぁ!」

「へぇ!これは綺麗だ」

プールの中央に大きな水槽が配置されており、中には色とりどりの魚たちが泳いでいた。

「すごいでしょう!綺麗でしょう!僕も大好きなんですよ〜!」

ウキウキした耕太クンが水面を揺らした。

そのまま俺達は魚を眺めながら何周も何周も流された。それにしても本当に癒やされる。この穏やかな時間が永遠に続けばいいのに……。

「そうだ!」

唐突に耕太クンが声を上げた。

「どしたん、耕太クン」

「ビッグアロハ行きましょう!」

「ビッグアロハ……っていうのは何だい?」

スパリゾートハワイアンズが誇る巨大ウォータースライダーです!」

げっ。巨大かぁ……。普通のウォータースライダーならええけどデカいんはちょっとなぁ……。

「へぇ、面白そうだね」

「めちゃくちゃ楽しいですよ!」

「あ、俺はパス……」

「何言ってるんですか倫さん!ハワイアンズに来てビッグアロハに挑戦しないなんて、ハワイに行って海行かないようなものですよ!」

何やその微妙に分からん例え。

「いやぁ……でもなぁ……」

「あ、もしかして倫さん……怖いんですかぁ?」 

ニヤニヤしながら耕太クンが言う。

「は、はぁ!?べ、べべ別に怖ないし!」

「おやおや、倫くんは意外と怖がりさんなんだねぇ」

何故かファービーもニヤニヤしながらこっちを見てくる。

「せやから怖ないっちゅうねん!行ったろやないかい!」

俺はニヤニヤする二人を引き連れて流れるプールを出た。

 

ビッグアロハとやらの乗り場はプールから少し離れており、水着のままホテルのラウンジのような場所を通りつつ辿り着いた。

券を買い、階段で頂上を目指す。他に並んでいる人がいないようだったのは良かったが、とにかく道のりが長い。俺の膝は途中で悲鳴を上げた。

元気な耕太クンとファービーをゼエゼエしながら追いかけ、やっと頂上に辿り着くと……

「え、高」

外の景色が目に飛び込んできたのだが、とにかく高い。この高さから身一つで滑り落ちるというのか。膝が笑い出した。悲鳴あげたり笑ったり忙しいな、アンタ。

「誰から行こうか」

「じゃあ、ジャンケンで勝った人からにしましょう!」

「何でもええよ……」

ジャンケンの結果、俺が先陣を切ることになった。

「俺からか……」

「大丈夫?倫さん、やっぱり怖いですか?」

「怖ないわ!」

「じゃあ行きましょう!レッツゴー!」

スライダーの縁に座る。かなりの角度がついており下が見えない。え、は???マジで滑るん???これを???無理なんだが???

スタッフのお姉さんがオーケーサインを出しているが、恐怖で躊躇ってしまう。

「倫さーん、行っていいんですよー?あ、やっぱり怖いんですね!じゃあ僕が背中押してあげます!そーれ!!」

不意に背中を押され、俺は……手を離してしまっ@*&]+№~¿®£#’/$=5(0¢¡¿℃©[|<¿;”!$^=?:&!@$+‥℃}]

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

悲鳴を上げるも声にならない。するとスライダーの色が切り替わり、なんとも美しい模様が浮かび上がった。おお、綺麗やなあああああああああああ曲がるううううううううう落ちるううううううううううおあああああああああああ!!!!!!

脳内で悲鳴を上げていると突然視界が明るくなり、俺は着水用プールに投げ出された。大きく開けていた口大量の水が流れ込んでくる。

必死に藻掻いて足をつくと、スタッフのオジサンに「お疲れさまでーす」と声をかけられた。

「あ、あっす……」

掠れた声で返事をし、プールから上がる。

い、いやあ、凄い目に遭った。あと耕太クンは後でしばく。

プールサイドで呼吸を整えていると、ザバァァンと大きな水しぶきが上がった。どちらかが来たらしい。見ると、長い髪をシャラリとかき上げたファービーがこちらに手を振っていた。くっそ、水も滴るいい男とはこのことか。

プールを上がったファービーは一言

「忘れていたよ、ウォータースライダーは着水で顔が濡れるね」

いやそこかい。

「でも、スライダーの模様が美しかったね」

「あ、そうよな!俺も思った!」

「おや、ちゃんと楽しむ余裕があったようで何よりだよ」

「どういう意味や」

などと話していると、また大きな水しぶきが上がった。耕太クンだ。

水から顔を出した彼は頭を左右に振って水飛沫を飛ばす。くっそ、水も滴る以下略。

「あ!倫さーん!ファービーさーん!」

こちらに気付いた彼が両手を大きく振りながらやってくる。

「いやぁ、やっぱりビッグアロハは最高ですね!倫さんも楽しかったですよね?」

「あ、あぁ……まあな」

「良かった!なんか滑ったらお腹空いちゃいましたねぇ〜。お昼食べましょう!」

「せやな、俺も腹減った」 

「賛成だよ」

俺たちはプールサイドの飲食店に向かった。

 

ブース形式の飲食店はハンバーガー、ピザ、ロコモコなどハワイっぽいラインナップが揃っていた。

「俺はハンバーガーかなぁ」

「僕はピザにします!」

「僕は折角だしロコモコにしようかな」

俺らは各々の食べたい物を求め『散ッ!』した。

5分後。俺らはテーブルに集い飯を食い始め……いや、その前に。

「なぁファービー……それ何?」

「これかい?ココナッツジュースだよ」

ファービーの前には子供の顔ほどもあるココナッツがデカデカと鎮座していた。

「あっ、それハワイアンズ名物なんですよ〜、お目が高い!」

耕太クンはほくほくしている。

「何でストロー2本刺さってるん?」

「さぁ?元からこうだよ」

カップルで仲良く飲めるんですよ〜」

……よう分からん。

ファービーさん!写真撮らせてもらってもいいですか?」

「勿論だよ。一緒にストローくわえて撮るかい?」

「ハイ!」

二人はココナッツにテンション上がりまくりである。俺は楽しそうな二人を眺めながらハンバーガーにかじりつ……

「次は倫さんと撮りたいです!」

「え」

結局俺も巻き込まれた。

 

食後俺達はまた流れるプールでゆるりと流された。これぞ癒し、これぞ至福。

が、そんな幸福は長続きせず、ビッグアロハ2回目に連れ出された。

俺のライフはもうゼロだった。

 

「はぁ……はぁ……」

「倫さんお疲れですねぇ」

「デカいスライダー2回は……キツいて……」

「うーん、時間もあれですし、そろそろ上がりましょうか!まだお楽しみはありますし」

「お、お楽しみ……?」

俺は訝しげな目を耕太クンに向ける。

「安心してください。怖がりな倫さんでも楽しめますから!最後のお楽しみは……温泉です!」

 

ザブン……と肩まで風呂に浸かる。昼から入る露天風呂のなんと贅沢なことか。スライダーですり減ったライフがみるみる回復していく。

「気持ちええなぁ〜」

「やっぱりプールの後の温泉は最高ですね〜」

耕太クンも顔が蕩けそうなほど和んでいる。

「この雰囲気もいいね、情緒に溢れているよ」

ファービーは長い髪を綺麗に結い上げ、色気に溢れた姿をしていた。俺らの後に入ってきたオジサンが一瞬ギョッとしていた。すまんな。

「いや〜……楽しいなぁ、スパリゾートハワイアンズ。耕太クンが年4で来るんも分かる気するわぁ」

「でしょう!?大好きなんですよ〜」

「確かに。僕ももうまた来たい気分だよ」

「また3人で来ましょう!絶対!」

「……せやなぁ」

「……そうだねぇ」

俺らはしばらく無言で露天風呂を楽しんだ。

 

その後、風呂の前の土産コーナーで駄菓子を買いまくる耕太クンを見守ったり、射的で店主を焦らせる腕前を披露したファービーに驚愕したりしながら、俺たちは出口に向かった。

 

「ふぅ、バイト先のお土産も買うたし、完璧やな」

「僕も福島名物が買えて嬉しいよ」

「二人ともハワイアンズを満喫してもらえたみたいで嬉しいです!」

「そういえば耕太くんも何か買っていたね?」 「せやせや、年4で来とんのに何買うたん?」

「これです!」

耕太クンが取り出したのは……例のゆるキャラのピンバッジだった。なぜか彼女(?)は軍隊のハンドサインをしている。

「これ、1回来るごとに1個買うって決めてるんです!全108種コンプが目標です!」

「……アカン〜〜〜ツッコミどころがカンストしとる〜〜〜」

俺は頭を抱えた。

 

 

※ココ姉さん軍隊ハンドサインピンバッジは販売されていません。